
石田逸翁(いしだいつおう)(1800-69)は、近江国犬上郡高宮(たかみや)(現彦根市高宮町)出身で、京で活躍した絵師です。高宮は中山道の宿場のひとつで、逸翁は、この地で代々寺子屋の師匠をつとめる家に生まれました。字は孟敬、通称は永蔵と宮内、逸翁は号で、若い時分から名乗った秀峰の別号もあります。
逸翁がいつ京に出たのかは不明ですが、岸派の祖・岸駒(がんく)門人の白井華陽(しらいかよう)の門に入りました。岸派は、当時の京の有力画派のひとつで、円山派などの各流派を折衷しつつ、あくの強い独特の画風を最大の特色とします。現存が確認できる逸翁の作品を概観すると、大枠では当時の岸派の画風の範疇に入るもので、特に故事人物図を得意としていたようです。
逸翁は、天保4年(1833)、御室の仁和寺門跡より法橋に、弘化4年(1847)には法眼に叙せられました。京の有名文化人名録とも言うべき『平安人物志』嘉永5年(1852)版に掲載されるなど、京で絵師として知られた存在であったことが確認できます。また、地元では、高宮と同じ犬上郡内の南河瀬村(現彦根市南川瀬町)に逸翁の親戚にあたる旧家が在り、晩年の作品を中心に逸翁作品が数多く伝存しています。珍しい大和絵風の雛図や法事の際に贈られた仏画も含まれるなど、画の描かれた背景を窺うことができる貴重な作品群と言えるものです。
逸翁には3歳下の妹、秀蘭(しゅうらん)(1803-63)がいました。秀蘭もまた絵を描き、好んで花鳥画を手がけたといいます。16歳で剃髪して智光院と称しました。秀蘭は号で、清月という別号もあります。若い頃の画風から兄に画を習ったと目されますが、その画は、一筆一筆を丁寧に描き、年を重ねても愛らしい品の良さを感じさせます。専ら桜画を描いていた同時代の女性、織田瑟々(おだしつしつ)(近江国神崎郡住、1779-1832)の画の影響も見られ、多様な画を参考に作画していた可能性を指摘できます。
本展は、現在ではほとんど知られることがなくなった石田逸翁・秀蘭を紹介する初の展覧会です。
【関連事業】
(1)関連講座「石田逸翁・秀蘭兄妹の画業」
講 師:髙木文恵(当館学芸員)
日 時:令和7年(2025年)9月6日(土) 午後2時~ *90分程度
会 場:当館 講堂
定 員:50名(当日先着順)
資料代:100円 (彦根市内の中学生以下は無料)
*展示の観覧には別途観覧料が必要です
(2)ギャラリートーク(展示解説)
講 師:髙木文恵(当館学芸員)
日 時:令和7年(2025年)8月30日(土) 午後2時~ *40分程度
会 場:彦根城博物館 展示室1・6
参加費:無料
*ただし観覧料が必要です
【主な展示作品】

1 海棠に孔雀図
(かいどうにくじゃくず)
石田逸翁筆 1幅
絹本著色
縦107.2㎝ 横50.0㎝
江戸時代後期
個人蔵

4 阿弥陀二十五菩薩来迎図
(あみだにじゅうごぼさつらいごうず) 石田逸翁筆 1幅
絹本著色
縦125.7㎝ 横55.4㎝
天保7年(1836)
個人蔵

5 桃園結義図
(とうえんけつぎず)
石田逸翁筆 1幅
絹本著色
縦114.6㎝ 横55.8㎝
弘化2年(1845)
円常寺蔵

25 唐子遊び図(からこあそびず) 石田逸翁筆 2曲1隻
紙本淡彩 縦65.7㎝ 横153.4㎝ 江戸時代後期 個人蔵

28 『平安人物志(へいあんじんぶつし)』嘉永5年版 1冊
弄翰子編
紙本木版摺
縦15.2㎝ 横11.0㎝
嘉永5年(1852)
当館蔵

34 桜に猿図(さくらにさるず) 秀蘭筆 1幅
絹本著色
縦107.8㎝ 横39.8㎝
江戸時代後期
個人蔵

39 善光寺式阿弥陀三尊像
(ぜんこうじしきあみださん
ぞんぞう)
秀蘭筆 1幅
絹本著色
縦88.9㎝ 横35.5㎝
江戸時代後期
個人蔵


45 蓮池図(れんちず) 秀蘭筆
6曲1隻
絹本著色
112.3㎝ 横270.0㎝
文久2年(1862)
個人蔵






