
儒学は、孔子(こうし、前552頃‐前479)を開祖とする社会思想である儒教を根本とし、中国南宋時代の朱熹(しゅき、朱子(しゅし)、1130-1200)らにより体系的な学問となり、日本にもたらされました。儒教のうち、とりわけ儒教道徳に基づく上下の秩序を重視する朱子学は、江戸時代には、幕府や各藩により社会・政治秩序を安定的に保つ上で役立つ学問として重んじられ、また、その教えを平易に紹介した版本の普及により、武士から庶民にまで広く浸透していきました。
彦根藩では、立藩以来、学問よりも武芸を尊ぶ気風がありましたが、17世紀末以降、儒学を積極的に学ぼうとする人々が現れます。18世紀前半にかけては、京都の朱子学者・浅見絅斎(あさみけいさい、1652-1711)とその弟子若林強斎(わかばやしきょうさい、1679-1732)の教えが広まり、一部の藩士や町人らに受け入れられました。とくに、強斎とその弟子は、彦根城下や高宮宿(彦根市高宮町)において、講師が受講者へ講義する「講釈(こうしゃく)」によって儒学の経典を読解して教授し、多くの聴衆を集めました。
18世紀前半からは、儒学を現実の政治に活かそうと試みた江戸の儒学者荻生徂徠(おぎゅうそらい、1666-1728)の教えも彦根の中・下級藩士を中心に受容されます。彼らは、同じ書物を輪読して対等に議論する「会読(かいどく)」の場を設け、儒学の経典を解読して、その解釈について議論を交わし、ときにはその議論が政治批判に発展することもありました。
18 世紀後半には、それまで好学の藩士を中心に学ばれていた儒学は、藩内で家臣教化の要として認められるようになりました。さらには、徂徠の教えを重視した彦根藩士野村東皐(のむらとうこう、1717-84)らにより、儒学によって人材を養成する場の必要性が説かれるなど、学校創設の機運が高まります。そして、その機運は、藩校稽古館(けいこかん)の設立という形で結実し、彦根藩士が儒学を学ぶ体制が整えられました。
本展では、藩校創設につながる彦根藩における儒学の受容の様子や、人々の学びの実態を紹介します。
【関連事業】
ギャラリートーク
日 時:令和7年(2025年)11月8日(土) 午後2時~ *30分程度
会 場:当館展示室1
参加費:無料 *展示室の入室には、観覧料が必要です
講 師:柴﨑謙信(当館学芸員)
関連講座
「向学(こうがく)の時代―18世紀彦根の儒学者たち―」
日 時:令和7年(2025年)11月15日(土) 午後2時~3時30分
会 場:当館講堂
資料代:100円
定 員:50名(当日受付、先着順)
講 師:柴﨑謙信(当館学芸員)
【主な展示作品】

1. 二字書(にじしょ)「順行(じゅんこう)」 1幅
徳川綱吉筆
縦 50.3㎝ 横 85.7㎝
元禄9年(1696)
当館蔵(井伊家伝来資料)

2. 若林強斎肖像(わかばやしきょうさいしょうぞう) 1幅
小浜市指定文化財
縦 108.0㎝ 横 28.0㎝
江戸時代
小浜市立図書館蔵
(西依家文書(にしよりけもんじょ))
3. 垂加霊社再興勧請細記
(すいかれいしゃさいこうかんじょうさいき) 1冊
小浜市指定文化財
縦 28.0㎝ 横 20.0㎝
江戸時代後期
小浜市立図書館蔵(西依家文書)
4. 琴所山人稿刪(きんしょさんじんこうさん)1冊
沢村琴所著
種村箕山編
縦 27.2㎝ 横 18.0㎝
宝暦2年(1752) 刊
京都大学附属図書館蔵
5. 三翁国語考(さんおうこくごこう)
5冊のうち1冊
野村東皐著
縦 13.5横 19.0㎝
江戸時代中期当館蔵(井伊家伝来典籍)

6. 学文乃意得(がくもんのこころえ) 1冊
野村東皐著
縦 27.8㎝ 横 20.4㎝
江戸時代中期
当館蔵(井伊家伝来典籍)








