独特の反(そ)りを持つ日本刀は、武器としての機能に限らず、その美しさは国内外から高く評価されています。
日本刀の歴史は古く、反りのついた弯刀(わんとう)形式が定着したのは、平安時代後期の11~12世紀と考えられ、この形式は現代まで受け継がれています。また反り以外に、刃やそれ以外の地鉄(じがね)と呼ばれる部分に見られる文様も日本刀の大きな特徴です。こうした文様は、鉄を叩いて成形する鍛錬(たんれん)と、火中で熱して刃を付ける焼き入れによって生み出されます。反りおよび地鉄の文様と刃文は、制作した時代や地域、刀工の流派や技術によって特色があり、日本刀を鑑賞する上での見どころとなっています。
元来は武器として制作された日本刀ですが、時には神仏に捧げる宝物、あるいは人と人との間で行われる贈答品としての役割を果たしました。特に、江戸時代になると、将軍家や朝廷、大名家などの間で日本刀の贈答が頻繁に行われ、名刀や古作の刀剣、著名な刀工の作品が珍重されました。
彦根藩井伊家もこの例に漏れず、江戸時代後期の内容と考えられる約400口(ふり)の刀剣を載せる腰物帳には、慶長年間(1596~1615)より前に鍛刀した名工の名を多く見ることができます。例えば、平安時代後期から鎌倉時代初期にかけて活躍した友成(ともなり)や正恒(まさつね)、鎌倉時代の国俊(くにとし)、国宗(くにむね)(備前二代)、恒次(つねつぐ)などです。また、慶長年間以降の刀工も、江戸時代を代表する繁慶(はんけい)や虎徹(こてつ)などが記載されています。これらの刀剣の多くは、関東大震災の罹災や第二次世界大戦時の供出によって失われたものの、今日まで伝存する刀剣から往時の様子をうかがうことができます。
本展では、重要文化財の伯耆国宗(ほうきくにむね)および備前国宗(びぜんくにむね)(二代)の太刀(たち)2口をはじめ、当館が所蔵する井伊家伝来の刀剣を例に、刃文や地鉄、姿など、日本刀鑑賞の基礎的なポイントを紹介します。また、刀身を収める柄(つか)や鞘(さや)などの刀装具も併せて展示します。日本刀が見せる豊かな表情や刀装具にあしらわれた多彩な細工をご堪能ください。