彦根城博物館が所蔵する井伊家伝来の印章は約750顆(か)もの多くを数えますが、これらは、井伊家が本邸を東京に構えていた大正12年(1923)の関東大震災で罹災してしまいました。石材を用いた印章は焼失こそしませんでしたが、欠けや変形が生じ、箱などの附属品は悉く焼失しました。
これら印章は、美術的な目で鑑賞することは困難となったことから、これまで展示公開の機会がほとんどありませんでした。そこで本展では視点を変え、印章に彫られた印文に注目することにより、当時の藩主の思想や教養などを照らし出そうとするものです。印文から使用者が判明するのは井伊家10代直幸(なおひで)(1731-89)以降のもので、藩主個人の好みなども透けて見え、藩主の息づかいも感じられることでしょう。
展示の構成は以下の通りです。
- 「思想に学ぶ」…江戸時代の思想の基本となる儒教。その重要教典とされる四書五経(論語、大学、中庸、孟子、易経、詩経、書経、礼記、春秋)の一節が印文として刻まれたものが多くを占めます。
- 「漢詩をうたう」…中国・唐代の詩を中心に、漢詩の一部が刻まれ、文人意識あふれる世界が繰り広げられます。
- 「家格を誇る」…彦根藩主であることを示す印文のほか、幕府の重臣であること、公家の九条家とのつながりがあることを示す印文など、井伊家ならではの印です。
- 「名を刻む」…伝来印章が最も多い井伊家10代直幸から15代直忠(なおただ)(1881-1947)に至る歴代の印。名、字、号などを彫り表します。
このほか、江戸時代中期に活躍した著名な篆刻家の源伯民(げんはくみん)、田中良庵(たなかりょうあん)など、篆刻者が判明する印章も併せて紹介します。
【主な展示作品】
▼「君子多識前言往行 以蓄徳」「蘭室主人」印 1顆 当館蔵
▼「渭北春天樹 江東日暮雲 何時一樽酒 重与細論文」印 1顆 当館蔵
▼「湖東彦藩之主羽林中郎将藤直幸之章」「開国元勲大臣世家」印 1顆 当館蔵
▼「大老之章」印 1顆 当館蔵
▼「直幸」「字福卿」印 1顆 当館蔵