※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止を図るため、開催を中止します。
当館所蔵の風俗図(彦根屛風(ひこねびょうぶ))は、近世初期風俗画の傑作として高く評価され、国宝に指定されています。「彦根屛風」の名は、代々彦根藩主であった井伊家に伝来したことによる命名で、一般に広くこの名で知られています。近年、井伊家12代の直亮(なおあき)(1794-1850)が購入したことが明らかになりました。
この屛風の制作は、江戸時代初期の寛永(かんえい)年間(1624-44)頃と考えられており、舞台は、当時の京の遊里(ゆうり)と推定されています。各人物は、屛風の山折りと谷折りの形態を活かし、それぞれが緊密な対応関係にあり、そのさまざまな姿態とともに、計算し尽くした完成度の高い構図がとられています。また、人物の髪や衣装の文様等、線描と賦彩は精緻を極め、器物や衣装の質感までもが表現され、生々しいまでの印象を与えます。そして、三味線、双六(すごろく)、恋文、画中画の屛風絵は、漢画の伝統的画題である琴棋書画(きんきしょが)の見立てと解され、屛風絵は室町時代の本格的な漢画の技法で描かれるなど、単純な風俗画を超えた、重層的な要素が随所に盛り込まれています。勿論、小袖(こそで)や唐輪髷(からわまげ)などの装いや種々の遊びなど、江戸時代初期の風俗をリアルに表現する点でも高く評価されています。
このように、多様な魅力を持つ屛風ですが、画中に落款(らっかん)はなく、作者は特定されるに至っていません。現在は、卓越した素養と手腕を持つ狩野(かのう)派の絵師の手になると考えられています。
本展は、来館者の多いゴールデンウィークを含めた約1ヶ月間、彦根の誇る名宝、彦根屛風を公開し、その魅力を堪能していただこうとするものです。併せて、彦根屛風に想を得て制作された屛風絵1点を展示します。
▼展示作品
1 彦根屛風(当館蔵)
2 風俗図(個人蔵)
本紙(絵を描いている部分):縦136.2㎝ 横127.0㎝
江戸時代後期~明治時代前期
個人蔵
彦根屛風が後世に与えた影響は大きく、近世から現代に到るまで、彦根屛風を写した作品や彦根屛風をアレンジした作品などが数多く確認されています。
本作品はそうした作品の1つ。向かって右下の双六盤(すごろくばん)を囲む3人とその手前の煙草盆(たばこぼん)は彦根屛風の図様を用いていますが、細部を見ると、髪型や服飾の文様や色などが異なる箇所もあり、アレンジを加えていることが分かります。3人の背後に配置された小袖(こそで)や帯を掛けた衣桁(いこう)は、近世初期を中心に流行した「誰が袖図(たがそでず)」と呼ばれる一種の風俗図のモチーフとしても知られ、本作品は、近世初期風俗画を意識して後世に懐古的に制作された作品と捉えることができます。