物語文学の最高峰と位置づけられる源氏物語。平安時代の成立時から好評を得て書写され、文学のみならず、美術、芸能、果ては和菓子の世界に至るまで、日本文化全般にわたり多大なる影響を与え続けてきました。
注釈研究も早く平安時代末に始まり、考証的なものから鑑賞的方向を打ち出すもの、啓蒙的なものまで、現代に至るまで膨大な蓄積が成されています。
源氏物語の受容層は、それまではほぼ一部上層階級に限られていたのが、江戸時代には、版本が出版されたこともあり、大きな広がりをみせ、大衆化します。特に、延宝元年(1673)に刊行された北村季吟(きたむらきぎん)著「湖月抄(こげつしょう)」は、全文を記して頭注や傍注で解説する読みやすい体裁で、源氏物語を広く流布させた立役者として知られています。そして、寛政11年(1799)に刊行された本居宣長(もとおりのりなが)著「源氏物語玉小櫛(たまのおぐし)」は、物語の本質を「もののあはれ」とする論を示し、後世にも大きな影響を与えました。
物語の絵画化もまた、原典成立後あまり間をおかずに始められたと考えられています。室町時代には物語各帖から選択する場面がほぼ定着し、受け継がれました。江戸時代には、源氏物語に限らず、平安時代の王朝風俗で描いた物語絵全般を「源氏絵」と称するようになり、その活況ぶりがよく分かります。
源氏物語に関する言葉として、源氏絵のほかに、源氏絵によく見られることから名付けられた源氏雲、源氏物語の冊子を収める源氏箪笥、御所車を図案化した源氏車、香りを当てる組香(くみこう)で源氏物語の各帖の名をつけた源氏香などがあります。これらもまた、源氏物語の世界が広がり、定着したことのあらわれとも捉えられます。
本展では、江戸時代を中心に、源氏物語の享受の様子を典籍や美術工芸品を通じて紹介します。江戸時代の人々が受け継ぎ、展開した、雅やかな王朝文化の世界を堪能ください。
【主な展示資料】
▼源氏物語(承応三年版絵入源氏物語) 60冊
各 縦28.0cm 横20.0cm
江戸時代 承応3年(1654)刊
▼湖月抄 60冊
北村季吟(きたむらきぎん)著
各 縦27.5cm 横19.5cm
江戸時代 延宝3年(1675)刊(延宝元年成立)
▼源氏物語図屏風 6曲1双
各 縦88.3cm 横245.0cm
江戸時代 個人蔵
▼源氏絵絵貝 2組(写真はうち1組)
縦5.9cm 横7.9cmほか
江戸時代