能面は能で用いられる仮面です。単に面(おもて)とも呼び、主に能の主役であるシテが使用します。面を着用することは、「かぶる」ではなく「かける」もしくは「つける」、また面を作ることは、面を「打つ」と言い習わされ、能面の作者は面打(めんうち)と呼ばれます。
能面には、役柄や演出にあわせたさまざまな種類があります。基本となる面は約80種類で、細かく分けるなら250種以上にも上ります。これらは大まかに「翁(おきな)」、「尉(じょう)」、「鬼神(きじん)」、「霊(りょう)」、「男」、「女」の6つのグループに分けられます。「翁」は天下泰平や五穀豊穣を祈る〈翁〉という演目の専用面、「尉」は年老いた神やその化身である老人を表した面、「鬼神」は荒々しい力を宿した恐ろしい神の面です。「霊」は神霊やこの世にさまよう幽霊、怨霊を表現し、「男」と「女」はそれぞれ人間の男女を表します。鬼神の面は眼や歯に金色の金具を嵌(は)め込むというように、それぞれグループごとに造形に特徴があり、それによってどのグループの面かを見分けることができます。
能は、室町時代初期に、世阿弥(1363?~1443?)によって大成された芸能です。しかし、この時、全てグループの面が揃っていた訳ではありませんでした。〈翁〉の演目は能の成立以前に芸能として成立しており、鎌倉時代に遡(さかのぼ)る古面も確認されています。能の成立と前後して、鬼や神の役で使用する鬼神の面が最も早く成立し、次いで、神の化身である尉の面と、女神や男の神の面が作られました。これに続いて、亡霊や怨霊の面が創作され、最も後に生まれたの人間の男と女の面です。
そして、能が広く普及した室町時代後期から桃山時代にかけて、演目が増加し、演目にさまざまな役柄の人物が登場するようになります。これに伴って、多種多様な面が生み出され、江戸時代初期には面の基本的な種類が出揃い、その形が定まったと考えられています。江戸時代に能は徳川幕府の式楽に定められ、その演技や演出は固定化されていきました。これに歩調を合わせるように、能面も定められた種類と型を踏襲し、制作されるようになったのです。現在目にする面のほとんどは、この江戸時代以降に制作されたものです。
本展では、「翁」、「尉」、「鬼神」、「霊」、「男」、「女」の各グループの特徴や決まりごと、面の種類の見分け方といった、能面を鑑賞する際のポイントを紹介します。また、普段は展示する機会のない面裏と面袋もあわせて展示します。この機会に、是非、能面に親しんで下さい。
【主な展示作品】
▼小べし見 洞水満昆 作 当館蔵
▼小面 大宮真盛 作 当館蔵
▼猩々(面裏) 甫閑満猶 作 当館蔵
▼面袋 当館蔵