能面は、能において主に主役であるシテが使用する仮面です。単に面(おもて)ともいい、その種類は基本となるものだけで60種類ほどあります。能には、この世に生きる人間だけでなく、神仏や鬼神、精霊、怨霊、亡霊といった、人ならざる様々な存在を主役とする演目があり、これらの役柄や演出に応じて、多くの種類の面を使い分けているのです。
能面は、使用する役柄の違いや造形的な特徴によって、複数のグループ、「翁」「尉」「鬼神」「霊(りょう)」「男」「女」に分けられます。この内、恨みを抱く怨霊、この世とあの世の境をさまよう亡霊、霊妙な力を持つ神霊などを演じる際に用いるのが、霊の面です。霊の面は、人間とは異なる存在であることを示すために、目や歯を金色とするものが多い点に特徴があります。
能面の中でも広く知られた面である般若は、霊の面のひとつです。金色に輝く目と鋭い角を持った恐ろしい相貌の面で、源氏物語を題材とした演目〈葵上〉のシテである六条御息所など、嫉妬のあまり鬼となった女の怨霊の役で使用します。激しい怒りを表現した般若とは対照的に、痩せこけた頰、憔悴しきった表情の痩男は、〈善知鳥(うとう)〉などの演目で、殺生禁断の罪によって地獄で苛まれる、猟師の亡霊役で用いられる面です。また、目に金輪をはめた造作が特徴の三日月や鷹のように、本来、颯爽と舞を舞う若い男神の役で使用されていたものが、その鋭い眼差しと厳しい表情から用途が変化し、後に武将の怨霊の役で用いられるようになった面もあります。
本展では、井伊家に伝来した能面の中から、さまざまな霊の面を展示し、その種類と特徴について紹介します。井伊家伝来の能面をはじめとする能道具は、井伊家15代当主直忠(なおただ)(1881~1947)が収集したもので、能面・能装束のほとんどの種類を網羅した大揃いのコレクションとして知られています。怨霊、亡霊、神霊、それぞれの役柄で使用する特徴的な装束や小道具とともに、役柄に応じた面の表情の違いにも注目してご覧ください。
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