彦根藩井伊家13代当主直弼(なおすけ)は、江戸時代後期の代表的な大名茶人として知られています。彦根藩を率いる藩主として、また、幕政を統括する大老として政治の表舞台で活躍する一方で、茶の湯の研鑽に力を注ぎ、茶書の執筆や茶会の開催、弟子の育成、茶道具の制作などを精力的に行い、自らの茶の湯を追究しました。
直弼は、文化12年(1815)、井伊家11代直中の14男として誕生しました。幼少期から茶の湯に親しみ、青年期には茶の湯への傾倒を深め、江戸時代の武家の茶として重んじられた石州流の始祖、片桐石州(かたぎりせきしゅう)の茶の湯を中心に学びました。直弼の茶書には、石州流の他に各流各派のさまざまな茶書からの引用があり、幅広い学びの様子がうかがわれます。
弘化2年(1845)、直弼は31歳にして「入門記」を執筆し、石州流の中に一派を立てることを宣言します。その後、茶会の際の心得や点前の作法などに関する茶書の数々を執筆し、安政4年(1857)には、その集大成ともいうべき「茶湯一会集(ちゃのゆいちえしゅう)」を完成させました。その序文に記された「一期一会」の言葉には、主と客が互いに相手を思いやり、精神的に深い交わりを持つという、直弼が理想とした茶の湯のあり方が端的に示されています。
本展では、直弼が生涯を通じて追究した茶の湯の思想を、自筆の茶書やゆかりの茶道具を通じて紹介します。