江戸時代、茶の湯は多くの人々に親しまれ、とりわけ武家においては、儀礼や交流の場で欠かすことのできないたしなみとして重んじられました。彦根藩井伊家においても、歴代当主が茶の湯をたしなみ、譜代大名筆頭の家格にふさわしい茶道具が多く収集されました。井伊家伝来品の多くは災害などにより失われたものの、現在当館が所蔵する伝来茶道具は900件以上にのぼります。
残念ながら、歴代当主のうち、江戸時代前期から中期頃については、彼らがどのように茶の湯に親しんでいたのかを示す記録がほとんどありません。大名家などの各家の略歴をまとめた「寛政重修諸家譜(かんせいちょうしゅうしょかふ」に記された井伊家歴代の項に、将軍家との間で茶道具の拝領と献上がしばしば行われていたこと、また、彦根藩士の各家の歴史をまとめた「侍中由緒帳(さむらいじゅうゆいしょちょう)」などの記録類に、井伊家当主とその家臣との間で同様の遣り取りが行われていたことがわずかに見いだされるのみです。これらの記録から、茶道具が、主従の関係を繋ぐ贈答品として重要な意味を持っていたことが理解されます。
一方、江戸時代後期の当主である12代直亮(なおあき)(1794~1850)と13代直弼(なおすけ)(1815~60)については、好みの道具や自筆の茶書などが伝えられており、茶の湯に積極的に取り組んでいた様子を具体的にうかがい知ることができます。
本展では、2代直孝(なおたか)(1590~1659)が徳川家康から拝領した名物茶入や、宇治の茶師が新茶を井伊家に納める際に用いた茶壺、大コレクターとして知られる12代直亮が収集した茶入、13代直弼自作の楽焼など、井伊家伝来の茶道具の名品10点をエピソードと共に紹介し、井伊家の茶の湯の歴史をひもときます。
*本展の会期中に、特集展示「井伊直弼の茶の湯」を、当館展示室3において同時開催いたします。江戸時代後期の代表的な大名茶人として知られる13代直弼(なおすけ)が、生涯を通じて追究した茶の湯の思想を、自筆の茶書やゆかりの茶道具を通じて紹介します。