彦根藩井伊家12代直亮(なおあき、1794-1850)は、茶の湯や煎茶に造詣が深く、道具や茶書を精力的に収集し、茶室の造営にあたっても積極的に関わっています。
茶の湯については、茶書は、自らが書写したものも含め、利休、千家、遠州、石州、藪内と、あらゆる流派のものを揃えています。伝来する道具は収集品のほんの一部に過ぎませんが、華やかかつ洗練された道具を好む傾向にあり、綺麗さびを特徴とする遠州流の作品が一定数確認され、中国渡来の品も積極的に取り入れています。天保13年(1842)、民窯として始まった湖東焼を藩窯とし、絵付師の幸斎(こうさい)や鳴鳳(めいほう)を招聘したことにより、茶道具も一層充実しました。また、彦根下屋敷の槻(けやき)御殿内に御茶座敷を造り、江戸上屋敷や早稲田屋敷に茶室の待合や茶屋を建てており、この際に、自ら幕府茶道にその仕様について書状で詳しく尋ね聞いていることが注目されます。
煎茶は当時、文人趣味の高揚で大いに流行しており、需要層は大名も例外ではありませんでした。天保13年(1842)、直亮は、槻御殿に中国趣味の煎茶室「楽々亭」を建立するほど熱心に取り組んでいます。茶の湯の道具同様、煎茶道具も積極的に収集し、湖東焼の道具も多く作らせました。中には、所蔵の中国渡来の煎茶碗の写しを作らせるなど、道具に対する思いには相当なものがあったようです。
井伊家の跡を継いだ13代直弼(1815-60)は幕末の大名茶人として良く知られていますが、彼は、直亮が築いた道具や茶書のコレクション、茶室等を受け継ぎ、これらを基盤に茶の理解を深めていったことも見逃せません。
本展は、井伊直亮の茶に焦点を当てる初めての展覧会です。大名の茶の文化受容の様相を具体的に知る機会になれば幸いです。
【主な展示資料】
▼唐物森本文琳茶入
口径 2.9㎝ 胴最大 6.3㎝ 高 7.0㎝
中国・宋時代
▼桜花透文釣灯籠
胴最大 22.1㎝ 高 42.5㎝
江戸時代
▼「千家伝授之書」
井伊直亮写
縦 23.7㎝ 横 17.3㎝
文政2年(1819)10月写
▼紫泥六角水注
口径 5.8㎝ 高 9.5㎝
中国・清時代
▼焼締波兎陽刻八角陶硯 銘竹生島
箱蓋・極札とも
最大幅 15.9㎝ 高 2.7㎝
江戸時代