慶長20年(1615)の大坂の陣以降、大きな戦乱のない太平の世を迎えると、武家における刀剣は、実戦で用いる武器から、武士階級を示す象徴的な道具へ、また拝領や献上をはじめとする贈答の品へと役割を大きく変化させました。将軍家や大名家には、室町時代以前に制作された古刀を中心に、名工の作や由緒のある著名な刀剣が集まり、その数は数百、多い場合は千口(ふり)以上であったと言われています。
彦根藩井伊家も、数多くの刀剣を有していたことが種々の腰物帳(こしものちょう)などから分かります。その中には宗近や安綱、包平、吉光、正宗、国広など、刀剣史でも屈指の刀工らの作品が含まれるとともに、名物として名高い品も見出すことができ、まさに大名家の刀剣らしい一群であったことがうかがえます。
往時の井伊家が所有していた刀剣の件数を正確に把握することは難しいものの、江戸時代末期の成立とみられる腰物帳の一つには約400口が確認でき、明治時代初期における井伊家の道具帳には、600口を超す刀剣が載るなど、その数が膨大であったことが分かります。また、古文書の中には刀剣の管理に関するものも見られ、彦根と江戸でそれぞれ保管されていたこと、儀礼での使用や藩主の求めに応じて彦根から江戸、江戸から彦根へ運ばれていたことなど、その時々の刀剣の状況について知ることができます。
これら井伊家の刀剣は、その後、関東大震災による罹災(りさい)や第二次世界大戦後の接収などに遭います。現在、彦根城博物館が収蔵する井伊家伝来の刀剣は420口ほどで、その大部分も焼身(やきみ)となった罹災刀剣です。当初の姿を伝えるのは僅か60口となったものの、正恒や国宗、虎徹や忠綱といった古刀や新刀を代表する刀工の作品など、その多くは優品で占められています。
本展では、当館が所蔵する井伊家伝来刀剣の中から厳選した30口を一挙に公開します。併せて腰物帳などの古文書も展示し、江戸時代における井伊家の刀剣の全容に迫ります。
【主な展示資料】
▼御代々指料帳
縦 29.8㎝ 横 20.8㎝ほか
文化9年(1812)
重要文化財
▼刀 無銘 伝左(名物 織田左文字)
刃長 67.4㎝ 反り 2.1㎝
南北朝時代
【刀身部分
【刀身部分
(物打下方~鋒)】
【刀身部分
(茎~元)】
▼刀 銘 繁慶 金象嵌銘 面影(号 面影)
刃長 70.5㎝ 反り 1.7㎝
江戸時代初期
【刀身部分
【刀身部分
(物打下方~鋒)】
【刀身部分
【刀身部分
(茎~元)】
【刀文と鍛肌】
【刀文と鍛肌】
▼埋忠刀譜
縦 29.5㎝ 横 20.0㎝
成立:江戸時代前期 写本:江戸時代後期